パート・派遣にも育休を 女性ら、権利求める動き
(朝日新聞 02/10/29)

 パートや派遣など有期雇用で働く女性たちに、産休や育児休業を求める動きが出ています。この夏以降、育休を申請したら拒否され雇用契約も更新されなかったとして、地位確認と損害賠償を求める訴訟や人権侵害救済申し立てが相次ぎました。背景には、短期契約を繰り返し更新する日本の有期雇用の特殊性があるようです。(竹信三恵子)
 千葉市内に住む折原由紀子さん(27)は24日、育休と休業後の復職を求めて、日本弁護士連合会に人権侵害救済の申し立てを行った。
 千葉市の福祉事務所の1年契約の非常勤手話通訳者として98年4月に就職し、契約更新されてきた。00年10月に結婚したとき、上司から「非常勤には産休や育休はない」と言われた。正規職員は産休のほか、「地方公務員の育児休業等に関する法律」で育休も3歳まで取れるが、非常勤は適用外。職場には10年以上働いている非常勤もいた。「実態は継続雇用なのに」と疑問を抱き、市内の福祉事務所で働く手話通訳者7人でつくるユニオンの仲間と01年5月、産休・育休を認めるよう市に要求書を出した。
 3カ月後に妊娠が判明した。2度の申請で産休は認められ、今年3月26日まで取った。しかし、3月末の契約終了時に更新はなく、退職。育休が認められれば雇用保険から出たはずの育児休業手当もない。払い続けた雇用保険料はどこかの正社員の手当に回るだけだ。
 「出産で継続更新が難しくなる今の仕組みでは女性は働き続けられない」と痛感し、申し立てに踏み切った。
 千葉市職員課では「契約更新がなかったのは、単に契約期間が切れたからで、育休の申請とは関係ない」と話す。
 民間の職場に適用される「育児・介護休業法」でも、有期雇用者は対象外だ。確かに1年の有期雇用に1年間の育休を適用するのは矛盾だ。しかし、厚生労働省の01年の実態調査によれば、パート労働者の86%が契約を更新したことがあり、平均更新回数は7・8回と、実質的な長期雇用者が少なくない。厚労省は今年4月施行の改正育児・介護休業法の指針に、「反復更新して実質が正規労働者と同じ働き方なら有期雇用者も育児休業の対象になりうる」と盛り込んだ。こうした規定がない公務パートに比べ、一歩進んだ措置だ。
 7月上旬、社団法人「日欧産業協力センター」を相手取って提訴した英国人サラ・ルイーズ・ハッセルさん(38)は、この指針をもとに地位確認と600万円の損害賠償などを求め、現在係争中だ。96年から1年契約の職員として総支配人のアシスタントや広報誌の編集に携わり、01年まで5回契約を更新した。  ハッセルさんによると、2人目の子供までは産休だけ取った。01年12月に3人目を出産、体がきついので育休を求めたところ、「有期雇用者に育児休業の適用はない」と断られ、今年6月末の契約終了時に更新がなかったという。
 センター側代理人は「ハッセルさんの仕事は一時的なもので、指針の対象外」と主張。更新打ち切りは、昨夏に総支配人がフランス人から英語のできるアイルランド人に代わり、仕事がなくなったためと説明する。
 ○実態反映した制度必要 更新繰り返す雇用が問題
 訴訟や人権救済申し立ては珍しいが、有期雇用の産休・育休をめぐるトラブルは少なくない。
 首都圏の大手メーカーの研究開発部門で実験補助を務める20代のパート女性は、00年から半年契約の自動更新で働いてきた。今年結婚し、妊娠。就業規則はパートにも産休・育休を認めるが、上司は「パートは前例がない」と拒否。契約期限が切れたこの秋、契約を打ち切られた。
 東京・小平市では昨年、1年契約で更新する学校事務の嘱託職員(39)に産休が認められた。市教委は「嘱託に産休制度はない」と拒否したが、パート労組をつくっての交渉が実った。だが、これまで30歳代でも非常勤職員になれたのに、今年から採用年齢が「45歳以上」に引き上げられた。同市では「中高年の雇用対策を重視した。出産適齢期とは関係ない」と話している。
 総務省の01年の労働力調査(特別調査)では、働く女性のうち非正社員は47%。出産年齢の25歳から34歳でも3割にのぼる。一方、21日発表の厚労省の「21世紀出生児縦断調査」では、出産で仕事をやめた女性の割合は正社員の49%に対し、パート・アルバイトでは79%だった。
 「首都圏青年ユニオン」の蓑輪明子さんは「かつて有期雇用は子育て後の復職女性が多かったが、今は20代、30代女性の普通の働き方。産休・育休は避けて通れない問題」という。11月23日午後3時から7時まで、同ユニオン(03・5395・5359)で電話相談会を開く。
 「NPO派遣労働ネットワーク」は7月、育休取得者4人の体験をもとにした「育児休業取得マニュアル」を発行した。
 こんな状況でも問題が表面化しにくいのは、契約更新を拒否される不安と、パートに情報が届いていないため、と「女性のワーキングライフを考えるパート研究会」の酒井和子さんは指摘する。
 今年、近畿管区行政評価局が大阪府内のパート・派遣労働者1390人を対象にした調査では、雇用保険に加入資格のあるパート労働者の81%が、育休がありうることを知らなかった。
 有期雇用問題に詳しい中野麻美弁護士は「反復契約更新で長期の仕事までが有期雇用契約で行われる日本のあり方自体がおかしい。欧州では、会社の業務が一時的に増えた時とか、決まった期間しか仕事がない場合の働き方で、最長期間を超えると自動的に無期の雇用になる。継続して仕事があれば有期雇用契約を認めないなど、実態を反映した法制度に変える必要がある」と話す。