平成20年度前期「人間文化基礎演習」授業記録


※「人間文化基礎演習」=人文学部人間文化学科1年生対象の授業で、必修。
                 主に、プレゼンテーションやレポート作成の仕方を学ぶ。
                  (その成果として、学期末にレポートを提出する。)
                 担当教員は8名、各教員に13名ないし14名の学生が学籍番号順に割り当てられる。
                 この演習の担当教員は、1年間、担当する学生のアドバイザーを兼ねる。


第1回(4月17日) ガイダンス(内容は省略)
第2回(4月24日) 「白い紙への恐怖をなくすトレーニング」
第3回(5月1日)  「効果的な議論をするためのトレーニング」
第4回(5月8日)  「発想力を鍛えるトレーニング」
第5回(5月15日) 図書館ガイダンス(内容は省略)
第6回(5月22日) プレゼンテーション練習
第7回(5月29日) よりよい文章を書くためのトレーニング
第8回〜第14回  プレゼンテーション実践






第2回 「白い紙への恐怖をなくすトレーニング」


 〔内容〕
  前半
   ・学生を6名ずつ、2つの班に分ける。(当日の出席者は12名)
   ・罫線のみが引かれた紙を各学生に1枚ずつ配る。
   ・学生は、1行目に物語の冒頭部分になるような1文を書き入れる。(3分以内)
     例)「今日、家に帰ってみると、ポストに1通の手紙が届いていた。」
   ・3分後、1行目が記入された用紙を、左隣にいる学生に渡す。(同時に、右隣の学生からも受け取る)
   ・1行目の内容をふまえて、2行目の文を考え出し、ストーリーを展開させる。(これも3分以内)
     例)「その手紙は、半年前に別れた彼女からのものだった。」
   ・1周して6行目まで埋まったら終了。
    ※物語が尻切れトンボで終わらないように、5行目あたりになったらストーリーの締めに入るよう指示。

  後半
   ・同じことを、今度は12人全員で行う。
   ・最初の6行目までは、1行当たり2分に短縮する。7行目以降は、1行3分にもどす。
   ・1周して12行目まで埋まったら終了。最後に、自分が1行目を書いた物語を受け取り、全体を読んでタイトルを付ける。
   ・1人1人、全員の前で完成した物語を読み上げ、無記名投票によってベストストーリーを選ぶ。

 〔講評〕
   ・授業前は、割り当てた時間では足りないのではないか、あるいは支離滅裂な文章になるのではないか、等の危    惧もあったが、実際させてみると意外に書けていた。このまま指導を続けていけば、学期末のレポートもある程度のものが書けるかもしれない。
   ・複数の人間が書き継いでいったとは思えないほどスムーズに流れる(文章的にも、内容的にも)ストーリーもあった。驚いた。



第3回 「効果的な議論をするためのトレーニング」


 〔内容〕=ディベート
   ・各人がディベートに適したテーマ(yes, noがはっきり分かれるもの)を1つずつ持ち寄り、投票によってその中から3つのテーマを選定する。
    選ばれたテーマは以下の通り
     1.小学校から英語を教えるべきか
     2.18歳から選挙権を与えるべきか
     3.男女別学は必要か
   ・最初のテーマでディベートをしてもらう学生をくじによって4人選出する。
   ・その4人をさらに2つのチームに分け、代表者のじゃんけんによって、「肯定側」と「否定側」に分ける。
    (「肯定側」は「小学校から教えるべき」、「否定側」は「教えるべきでない」という立場をとる。)
   ・まず、「肯定側」の1人目に2分の考慮時間が与えられる。(考慮時間中はパートナーと相談してもよい。)終了したらすぐに1分間で自分の意見を述べる。
   ・ひきつづき「否定側」の1人目の考慮時間に入る。終了後は、同じように1分間で自分の意見を述べる。ただし、「肯定側」の1人目の意見をふまえたものでなければならない。
   ・ひきつづき「肯定側」の2人目の考慮時間に入る。以下、「否定側」の2人目まで意見を述べたら討論終了。
   ・討論をした4名以外は、討論の内容をメモに取り、どちらが優勢に討論を運べたかを判定する。
    (優勢と思えた方に投票し、勝敗を決定する。その際、自分がどちらに共感できるかではなく、あくまで討論としてどちらが優勢だったかを判定するよう指示。)
   ・2つ目、3つ目のテーマでも4人ずつ選出し、同じように行う。
    各テーマごとの勝敗は以下の通り
     1.○肯定 6 − 2 否定×
     2.○肯定 5 − 3 否定×
     3.×肯定 1 − 7 否定○


 〔講評〕
  ・今回のねらいは、テーマおよびそれに対する自分の立場を明確にして、自らの論を組み立てる練習をすることにあった。レポートを書く際にも同じことが必要になる。この過程の重要さを理解し、レポート作成につなげてくれることを期待したい。
  ・1分間のスピーチで、30秒近く時間を余らせた学生もいた。1分間を短く感じあせったケースと、自分の立場を明確にすることができず、結果話す内容が乏しくなってしまったケースの2つがあったように思う。



第4回 「発想力を鍛えるトレーニング」


 〔内容〕
   ・当日の参加者(12名)と同じ12枚の、それぞれ異なる写真を用意する。
     (浜辺で逆立ちをしている写真、人が遠くを指さしている写真等、一見したところ何をしているか具体的には分からない写真が最適)
   ・くじで、誰がどの写真を担当するかを決める。
   ・学生は、自分に割り当てられた写真について、それがどのような場面なのか、写っている人は何をしているのか等を考える。(3分間)
   ・全員の前で写真の説明をする。(1分間。その際、他人が考えつかない独創的なアイディアを出すよう心がけること、説明はあまり突飛なものでなく、説得力を持ったものにするよう指示)
   ・全学生の発表が終わったら、「独創性」・「説得力」の2つの観点からもっとも良かったものを無記名投票により選出する。


 〔講評〕
   ・「独創性」を発揮しながら同時に「説得力」を失わないようにするというのは、1年生には多少難しい課題だったかもしれない。しかし、全員が、写真から外れて想像の世界に完全に出て行ってしまうことなく、写真に写っているものに終始依拠し説明することで、説得力を持たせようと努力していた。私は「説得力を持たせなさい」と指示しただけなので、これは学生が自ら考えたどり着いた手法である。ここまでこちらの意図をくみ取ってくれるとは思わなかった。
   ・研究対象にじっくり目を据えるということは、学生たちが来年以降どの分野に進んだとしても重要なことであろう。今回気づき、実践できたことを今後に生かしてもらいたい。



第6回 プレゼンテーション練習


 〔内容〕=第8回から本格的に始める「プレゼンテーション実践」に向けた練習
  ・くじで発表をする順番を決める。
  ・発表者の左隣に座っている学生が、たえず司会、およびコメンテーターの役を担う。(発表者が代わるごとに司会も代わり、全員が発表と司会を経験する。)
  ・発表者は、これまで読んだ本2冊(専門書に限る)について内容を説明する。(このことは第1回の授業で予告済み。学生は準備をしてきている。)
  ・司会(コメンテーター)が、発表の内容について質問する。
  ・その後、他の学生が質問をする。
  ・質疑応答を含め、5分で終了。(時間の管理も司会が行う。)


 〔講評〕
  ・質問を考えることに相当苦労していたようだった。発表の内容に対してではなく、「なぜこのテーマの本を選んだか」等の表面的な質問が多く見られた。「よかったと思います」等の感想で終わらないようにとの注意も授業冒頭でしておいたが、実際そのような意見を発する学生もいた。有効な質問をするためには、まず発表を正確に理解する必要がある。正確な理解と有効な質問、その2つの課題を同時にクリアするのは学生にはかなり難しかったようだ。



第7回 よりよい文章を書くためのトレーニング

 〔内容〕
  ・ある文庫本の最初の数ページをコピーし、学生に配布する。(内容は、小説ではなく、論説的なもの)
  ・学生はそれを読み、その文章の良い点・悪い点を書き出す。(さらに悪い点については、どのようにすればよくなるか、改善策も考える。ここまでを15分で行う。)
  ・くじにより、司会を2名選出する。司会を中心に、全員でこの文章の良い点・悪い点・改善策を話し合う。(20分)


 〔講評〕
  ・良い点、悪い点が挙がった際に、反論があれば積極的に発言するように言っておいた。(たとえば、ある学生が「良い点だ」と言ったところに対して、自分がそうは思わないのであれば、その旨発言する。)これが功を奏したのか、今日の議論はかなり活発なものとなった。この点は素直に評価したい。
  ・それと対照的に、司会として議論を進行させるのは、まだまだ難しいようだ。指名をして参加者に発言させるのは簡単であるが、それだけでは各人からバラバラな意見が出るだけで、議論には発展していかない。このことを認識しているかどうかで司会の良し悪しが決まってくると感じた。司会がうまくできない学生には、まずこの辺の指導が必要であろう。
  ・それにしても、毎回欠席者がおり、学生が全員そろったためしがない。私はこの授業を高校までの「ホームルーム」のようなものと位置づけ、担当する学生と定期的に顔を合わせられる貴重な場であると考えているが、この点について、学生とはどうやら温度差があるようだ。もちろん、ここには指導力不足が大いに関係しており、それは自分でも痛感しているのであるが・・・



第8回〜第14回 プレゼンテーション実践

※学生による議論が中心となる。これら「プレゼンテーション実践」の進め方、および学生への注意事項は以下の通り。

 〔進め方〕
   ・あらかじめ司会者2名、および発表者2名(仮に「発表者A」、「発表者B」とする)が指名されている。
   ・「発表者A」が発表を行う。(15分、テーマは各自が設定したものでよい。)その後、司会を中心に質疑応答を行う(15分)。したがって、1つのテーマについて30分が目安となる。
   ・「発表者B」に移る。同様に質疑応答に入る。30分を目安に終了。
   ・発表者以外の学生は、「評価シート」に従い各発表を評価する。同じシートを2部作成し、1部は教員に、1部は発表者に提出する。発表者は、それをもとにさらに調査を進め、順次レポート作成に入ることになる。
   ・最後に、各発表・議論の進め方等について、教員がコメントをする。

 〔学生への注意事項〕
   ・発表者は、15分話せるように事前に十分に準備をしておく。
   ・司会者は、1つのテーマで30分持たせるように努力する。しかし、時間が来たからといって、そこで終わりにすればよいというわけではない。議論がもう少し発展しそうであれば、多少時間は超過しても議論を継続すべきである。「議論の落としどころ」をたえず意識し、進行する。「落としどころ」がない議論をしてそのまま終了しても何の意味もない。
   ・参加者は、毎回かならず1回は発言する。
   

 〔発表テーマ〕

授業日 発表者A 発表者B
6 / 5 19世紀後半期と黒猫の関係性 独ソ戦と今
6 / 12 すり替えられていく目撃者の記憶 精霊信仰からみる阿古耶姫伝説
6 / 19 北欧神話とキリスト教の関連 ワーキングプア―働いても豊かになれない人々―
6 / 26 シュメル人の宗教観 アメリカの国民性とその歴史的・宗教的背景
7 / 3 ドイツ社会保障とその影響 明治維新後の日本の教育
7 / 10 聖徳太子は本当に実在していたのか 神道とヒンドゥー教の類似
7 / 17 「中間者」としての「塩」



 〔各回で気がついたこと、学生に伝えたこと〕
  6 / 5
  最初の発表者に関する議論がかなり長くなり、2番目の発表にかける時間が短くなってしまった。議論が長くなるのは一見よいことのようにも思われるが、今回の長引き方はかならずしもよいものではなかった。何の脈絡もなく質問をふり、その結果、だらだらと質疑応答が続いたことがその原因であったからである。司会はやみくもに発言を求めるのではなく、ある質問や意見が出た時に、まずそれに関連した発言を募り、ある程度の「落としどころ」を見つけた上でつぎの話題に移行するよう、学生には注意を促した。非常に難しいことであるが、次回は少しでもこの点が実現できていることを期待したい。

  6 / 12
  今回も、司会が脈絡なく質問をふり、時間になったら議論を強制的に終了させてしまう結果になった。この原因について、今日1つ気づいたことがあった。司会が、発表の内容を十分に理解しておらず、発表者の論理展開について行けていないのではないかというものである。内容、および論理構成を正確に把握していないから、やみくもに質問をふるしかないのであろう。次回は、司会者に、発表の内容を発表者の論理展開にしたがって一度まとめさせた上で議論に移る、などの工夫を入れてみたい。

  6 / 19
   上で宣言したとおり、発表者が発表を終了した後、司会にその内容をまとめさせ、それから議論に入るようにした。その結果、見事に発表者の論理展開にしたがった非常に有益な議論になった。話がさまざまなところに飛んでいってしまうことも一切なかった。今回は、自分の場合に引きつけて議論をすることが割合しやすかったテーマであったとはいえ、司会の力量、およびそれを支え積極的に質問をした参加者の意欲を大いに評価したい。今日くらいの議論ができれば、今後どの演習に参加してもそこで中心的な役割を果たしてくれるだろう。
   前半の「宗教は一般にどのような過程を経て広まっていくものなのか」、後半の「手厚い社会保障がほんとうにワーキングプアの解消につながっていくのか」に関する議論は、たいへん面白かった。学会に出ているより面白かった。

  6 / 26
   前回同様、ある程度まとまった議論をしていた。
   ただ、今回の司会は自分の仕事を過大に考えたのか、各発表の最後に、これまでの議論をすべてたどり、それをもってまとめにしようとしていた。これは非常にたいへんな作業であり、かつ(学生たちは議論を聞いているわけだから)ぜひとも必要というものでもない。バラバラな議論をして時間が来たら終わるということが問題なのであるから、「まとめ」をそれほど重大に考えすぎることもないと伝えた。
   発表をした学生がつぎの回を欠席するというケースが、2週連続で起こった。発表はどの「基礎演習」でも行っていることであり、それほど発表者に過重な負担をかけているとも思えないのだが・・・。文献をじっくり読む授業が学生に嫌われる昨今、演習は学生に発表をさせる形式をとることが多く、卒業するためにはそれらを履修していかなければならない。発表が過重な負担になっている学生がいたとしたら、早く方法論を身につけ、対処できるようにしてほしいものである。

  7 / 3
   質問者が1つだけ質問をして、発表者が回答するとそれで簡単に引き下がってしまう場面が目立つ。「もう少しつっこんだ質問ができるのに」と思う場合も多々ある。そのような時、質問者の顔を見ると、やはり腑に落ちない表情をしている。今日の授業では、疑問が残るならば、さらに質問を続けるように指導した。
   6月19日の非常に活発な議論を最後に、その後は多少停滞気味である。残り2回、なんとかあの回の活発さ・面白さを取り戻して終えたいものだ。

  7 / 10
   ノーコメント(お察しください)

  7 / 17
   来週も授業は行うが、個別に面談をする予定であるので、全員で議論をするのはこれが最後である。もう一度活発な議論を復活させるため、今回は、議論の前に、どの部分が今日の重要な論点となるかを、レジュメを見ながら全員で検討した。その結果、周辺的なところに無駄な時間を割いて、発表者の主張の中心にたどり着く前に時間切れになるという、いつもの悪いパターンは避けることができた。私がけしかけたのであるが、一部活発な議論が行われた場面もあった。
   少しでも「実りのある議論」をさせようと誘導してきたが、やはり非常に苦労した。しかし、「実りのある議論」を実践することはできなかったにしても、何が「実りある議論」なのかについては、全員が理解したものと信じたい。この演習で達成できなかったことは、この後の個人の努力に任せるしかないが、このメンバーの中の1人でも2人でも、これから履修する演習で中心的な役割を担えるようになってほしいと思う。



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