II.経済指標の解説

(1) 全国の経済概況

◇景気の持ち直しとデフレを同時に宣言した月例報告

 内閣府は『月例経済報告』において昨年6月から景気が持ち直しているとの基調判断を示してきた。
 2009年7〜9月期の四半期別GDP速報をみれば、実質国内総生産(GDP)は4〜6月期より前期比プラスに転じていること,但しプラス幅は7〜9月期に落ち込んでいることがわかる。その内訳を寄与度別にみると、財貨・サービスの輸出及び民間最終消費が大きな要因である。

 しかし,この実質GDPの伸びは,日本経済に推定される潜在成長率からはまだまだ低く,両者の者GDPギャップ,いわゆる「需給ギャップ」はマイナス6.7%と推計され,11月の『月例経済報告』でのデフレ宣言を引き出している。マイナス6.7%とは金額に換算すると約35兆円程度の需要が不足していることになる(日本経済新聞2009年12月1日付)。「持ち直し」と言われながら,なおデフレにある日本経済とはどのようなものか,以下,個別の指標をみてみよう。

 

◇持ち直している生産

 『月例経済報告』は逸早く昨年6月からアジア向けを中心に増加している輸出に絡めて「生産は,持ち直している」との判断を示してきた。
 実際,経済産業省『鉱工業指数』11月分速報をみれば、生産も出荷も9ヶ月間連続して前月比増加を示している。他方,在庫は3ヶ月ぶりの増加であった。製造工業生産予測調査によると、12月、1月とも上昇が予測されている。そのため,速報は「総じてみれば、生産は持ち直しの動きで推移している」との判断を下している。

◇大幅な減少が続きながら,そのテンポが緩やかになりつつある企業収益

 まず,2009年7-9月期の経常利益は、前年同期比32.4%減となり、9四半期連続の減益となった。業種別にみると、製造業が69.3%の減益、非製造業が7.8%の減益となっている(『法人企業統計季報』(09年7〜9月期))。
 企業の景気認識はどうか? 景況について「良い」と回答した企業の占める割合から「悪い」と回答した企業の割合を差し引いた業況判断D.I.は、12月調査時点の現況についても来年3月時点の先行き見通しもいずれもマイナスであるが,12月時点の現況に関する判断は企業規模区分に関わりなく,また製造業,非製造業の別にも関わりなく,マイナス幅が減少している。但し,3月時点への先行き予測になると,中堅企業,中小企業でマイナス幅が若干拡大する。また中小企業製造業,中堅企業非製造業,中小企業非製造業でも若干悪化する(『日銀短観』12月分)。
 11月の倒産件数も前年同月比11.3%減の1,132件、4カ月連続前年同月を下回っている。負債総額は、前年同月比20.6%増となり6カ月ぶりに5,000億円を上回った。これはロプロと穴吹工務店の大型倒産発生が影響した(この2件で負債総額の過半を占める)。また産業別倒産件数は,倒産件数、10産業のうち農・林・漁・鉱業を除く9産業で前年同月比減少している(東京商工リサーチ『全国倒産状況』11月版)。

◇下期になって上方修正された200年度投資計画

 2009年度の、土地投資額を含む設備投資額は,中堅企業,中小企業では前年度比30%前後の縮小計画であった(大企業に限っては同13.8%)。また製造業は規模計で同30.6%減(非製造業同12.4%減)であった。12月『日銀短観』によれば,この減少計画は上期にさらに数%削減されたものの,下期になってほぼどの企業規模でもまた製造業,非製造業に係わりになく上方修正された。上で触れた減益幅の縮小と関係していよう。

◇依然として厳しいながらも「過剰」判断が減少しつつある雇用情勢

 11月の完全失業率(季節調整値)は5.2%(前月比0.1%ポイント上昇)。完全失業率(同)は4か月ぶりの上昇である。昨年11月は3.9%であったからこの1年で1.3ポイント上昇したことになる。ちなみに男性5.4%(前月比べ0.1%ポイント上昇),女は4.9%(同0.1%ポイント上昇)であった。15〜24歳の完全失業率(原数値)は8.4%と,1年前に比べ1.4%ポイント上昇している。
 少し細かくみると,11月の就業者数は6260万人と1年前に比べ131万人減少しているが,これは22か月連続の減少であった。産業別産業別就業者数を1年前と比べると,製造業,卸売業,小売業などが減少し,医療,福祉,宿泊業,飲食サービス業で増えた。他方,完全失業者数は331万人と1年前に比べ75万人の増加,13か月連続の増加であった。主な求職理由別にカウントすると,非自発的な離職による者が148万人(57万人増加),うち定年又は雇用契約の満了35万人(9万人増加),勤め先都合114万人(49万人増加)であった。自発的な離職による者は101万人(7万人増加),学卒未就職者が13万人(4万人増加),新たに収入が必要な者が40万人(5万人増加)であった(以上,『労働力調査』11月分)。
 雇用人員判断をみると,「過剰」判断企業数−「不足」判断企業数の全体に占めるパーセンテージは,企業規模にかかわらず,製造業で20%を超える過剰であるが,昨年9月時点に比し減少しているし,3月先行き判断はさらに減少している(12月『日銀短観』)。雇用の厳しさも徐々に和らぎつつあると言えよう。
 『毎月勤労統計調査』11月分結果速報によれば,現金給与総額は2.8%減(前年同月比)の277,261円であった。内訳は,所定内給与が1.0%減の245,336円,所定外給与は5.7%減少し、きまって支給する給与は1.3%減の263,118円であった。

◇景気を下支えしている家計消費

 物価指数については,11月の総合指数は平成17年を100として99.8となり,前月比は0.2%の下落,前年同月比で1.9%の下落となった。食料(酒類を除く)及びエネルギーを除く総合指数は98.5となり,前月比0.1%の下落,前年同月比で1.0%の下落とあった。総合指数の前年同月比は,2007年10月から上昇に転じたものの,2009年1月より下落に転じている(『消費者物価指数(全国)』11月分)。11月の『月例報告』で飛び出したデフレ宣言も,物価指数の変化を追った後「こうした動向を総合してみると、持続的な物価下落という意味において、緩やかなデフレ状況にある」との表現であった。
 しかしながら,家計支出は前年同月比で実質2.2%の増加,前月比(季節調整値)で実質0.1%の増加であった。前年同月比では3ヶ月連続増加している。勤労者世帯の実収入は,前年同月比実質0.3%の減少であり,減少が4ヶ月続いている(『家計調査(2人以上世帯)』11月速報)。
 消費マインドを消費者態度指数にみれば、平成21年11月の一般世帯の消費者態度指数は、前月差1.0ポイント低下し39.5であった。また、単身世帯の消費者態度指数は、前月差0.4ポイント低下し41.1となり、総世帯でも前月差0.9ポイント低下し39.9となった。しかしいずれも低下は7ヶ月ぶりのことである。(『消費動向調査』11月分)。
 販売側の統計もみてみよう。『商業販売統計速報』11月分によると,11月の商業販売額は40兆6760億円で前年同月比14.6%の減少であった。2008年9月以来前年同月比減少が続いている。うち,小売業に絞ると,同1.0%の減少であるが,業種別にみて増加したのは自動車小売業同21.1%,機械器具小売業の同0.6%増だけであった。業態別にみると,百貨店が既存店ベースで同11.7%減,スーパーが同じく既存店ベースで同8.3%減であった。既存店ベースでの対前年同月比減少は百貨店では2008年2月以降,スーパーでは2008年8月以降続いている。他方,昨年は増加を続けていたコンビニエンス・ストアも既存店ベースで6.4%マイナスと,2009年6月以来減少を続けている。
 その他、住宅建設は奮わない。11月の住宅着工は,持家は増加したが,貸家,分譲住 宅が減少したため,全体では減少となった。内訳は,持家が25,441戸(前年同月比8.3%増,14か月ぶりの増加),貸家は29,508戸(同25.3%減,12か月連続の減少),そして分譲住宅が12,677戸(同38.2%減,12か月連続の減少)であった(国交省『建築着工統計調査報告』2009年11月分)。

アジア向けに増加を続ける輸出

 地域別の輸出入数量指数をみれば,アメリカ向け,EU向け輸出は2008年ピーク時に比し4割前後落ち込んだままであるが,アジア向けは2割減近くまでに回復している。アジアからの輸入はほぼ回復しているが,アメリカ,EUからの輸入は輸出のケースとほぼ同じである。結果として,貿易・サービス収支の黒字は、増加している。

 以上,全国的な状況を見ると,消費者物価総合指数は前月比で1年以上下落を続け,四半期毎の企業収益は前年同期比で減少を続けながらも,家計支出が対前年同月比で3ヶ月連続して増加していたり,アジア向けを中心とした輸出の増加から鉱工業生産指数における生産及び出荷は9ヶ月連続の増加を示していたりと,回復の足取りを確認することが出来た。企業の業況判断D.I.がマイナス幅を縮小させていることは経営者が「持ち直し」を実感していることを伺わせる。その意味で,内閣府『月例報告』の「景気が持ち直している」との判断はあながち誇張されているわけではない。しかし,就業者は22か月連続で減り続け完全失業者も13か月連続で増加を続けるなど雇用情勢が依然厳しく,現金給与総額が減少を続ける中では,貯蓄を取り崩した上で増加している家計支出と輸出とが頼りの景気回復は「自律性に乏し」いと政府自らが認めざるを得ない状況である。

(2) 山形県の概況

◇持ち直しの動きが認められる県内経済

 山形県の経済状況について、昨年12月末に県が発表した『山形県経済動向月例報告』は「持ち直しの動きが続いているものの,依然,厳しい状況にある」との基調判断を示した。これは持ち直しの動きに「一部に」と限定符を付し,「引き続き低迷」と断言していた11月報告に比べれば、景気回復に一定の感触を得たことを窺わせる。それは何であったか,しかしなお慎重な表現を続いているのはなぜか,という観点から各指標に当たってみたい。

◇持ち直しの動きが続く生産部門

 生産の動向を鉱工業生産指数でみると、県の10月の生産指数(季節調整済み,2005年=100)は95.4で、前月比で11.3%の上昇である。前月比の上昇は3ヶ月連続である。今月の生産指数の上昇は,情報通信機械工業,一般機械工業など15業種での生産増による(『山形県鉱工業指数』10月速報)。
 業況判断D.I.でも,上述の全国版と同様に,マイナス幅の減少,改善が認められる。但し,3月への先行き判断では,悪化するとの様相は増えている。
 2桁の減少であった2009年度の売上高計画は,9月調査時に比べて非製造業で上方修正されたものの,製造業では下方修正となり,全体としては小幅に下方修正された。
 他方,経常損益計画は、製造業、非製造業とも黒字が計画されているとはいえ,売上高利益率自体が低いうえに(製造業0.10%,非製造業1.62%,産業計で0.70%),9月調査時に比し若干下方修正された。
 対前年度比で大幅な減少計画であった設備投資計画(ソフトウェア投資を除く)も、前回9月調査に比して、製造業、非製造業ともに上方修正され(以上,日銀山形事務所『山形県企業短期経済観測調査結果』12月調査)。



◇厳しいながらも緩やかな改善基調にある雇用情勢

 11月の有効求人倍率(季節調整値,パートタイムを含む)は前月と同じ0.37倍であり,6月をボトムとした緩やかな回復基調にあることを示している。もちろん水準は低く,原数値(パートタイムを含む全数)でみても0.40倍は前年同月を0.29ポイント下回っているばかりか,34か月連続の1.0倍割れである。
 これを細かくみると,1月の新規求人数(パートタイムを含む全数)(原数値)は5,151人で、前年同月と比較すると8.0%減となり、35か月連続の減少となった。産業別にみると、公務・その他(109.8%増)、建設業(3.3%増)等で増加した他は、卸売業、小売業(30.4%減)、サービス業(17.7%減)、運輸業、郵便業(14.4%減)、製造業(12.9%減)、宿泊業、飲食サービス業(9.0%減)、医療、福祉(4.0%減)、金融業、保険業、不動産業、物品賃貸業(3.3%減)と軒並み減少している。他方,正社員に係る有効求人倍率(原数値)は0.19倍となり、前年同月を0.14ポイント下回った。態様別(パートタイムを含む常用)にみると、在職者(15.9%減)は7か月連続で減少し、離職者(16.6%増)は15か月連続で増加、無業者(12.9%増)は2か月ぶりに増加となった。また、離職者のうち、事業主都合離職者(51.9%増)は13か月連続で増加、自己都合離職者(4.2%減)は10か月連続で減少となった(山形労働局『雇用情勢』11月分)。
 本県の10月の現金給与総額(事業所規模5人以上)は224,830円であり、前年同月比4.3%の減少である。事業所規模30人以上をとれば、現金給与総額は250,819円であり、同3.8%減少であった。現金給与総額のうち、きまって支給する給与は224,306円で前年同月比3.9%減少(同249,957円、3.8%減少)した(山形県総務部『毎月勤労統計調査地方調査結果速報』10月分)。

◇小売販売額は引き続き減少しながら,見通しを改善させた消費動向

 東北経済産業局『東北地域大型小売店販売額動向』11月分によれば,本県の大型小売店舗(百貨店,スーパー)の販売額(既存店ベース)は対前年同月比で7.7%の減少であり,19ヶ月連続の減少であった。東北六県では11ヶ月連続の減少である。東北六県のコンビニエンス・ストアの10月の販売額等(商品販売額+サービス販売額)は既存店ベースでみて,対前年同月比2.3%の減少であり,この減少は5月以来続いている(同『東北地域コンビニエンス・ストア販売額動向』09年11月分速報)。
 11月の新車登録台数は普通車が936台(対前年同月比68.0%増),小型車1,528台(同33.9%増),軽自動車1,812(同0.6%増)であり,普通車,小型車は5ヶ月連続の対前年度同月比増であった(『東北運輸局管内の新車新規登録・届出台数(11月分速報値)』)。
 新設住宅着工戸数は10月の総戸数は前年同月比19.7%の減少であった。対前年同月比の減少が9ヶ月続いている。
 少し古くなるが,本県の消費動向を荘銀総研が昨年9月に実施した『第13回山形県家計消費動向調査』に求めれば,9月時点の消費指数は6月調査時点に比して0.9ポイント低下している。内訳を見れば,暮らし向き動向指数は変わらないものの,景気判断指数が6月比0.9ポイント低下している。しかし,「今後の見通し」については25.3ポイント改善している。上述の10-11月調査における新車登録や住宅着工の増加が既に予測されていたわけである。

◇同時に要請されている内需志向の産業への転換と差し当たりの需要創出

 各種指標を当たった結果、日本経済全体でも県内経済でも、生産と家計を中心に「持ち直し」の動きが続いていることがわかった。しかし,これらの動きがGDP要因分析で明らかなように輸出依存であったり,勤労者所得が減る中での家計支出の増加であったりする以上,未だしっかりとした足取りとはいえない。「自律性に乏しい」とは政府の認識であり,巷間言われる「二番底のおそれ」は外需依存を懸念してのことである。
 こうした状況では,政府にさらなる積極的関与が求められてくる。政府が昨年末にまとめた新成長戦略は「民間の需要を刺激する政策だ。日本の需給ギャップ(約35兆円)を需要側から埋めていく」と指摘した上で,2010年の日本経済について「前半は注意が必要だが、後半からは力強い回復になる」と述べている(日本経済新聞2010年1月3日付,津村啓介内閣府経済財政担当政務官)。需要サイドの刺激による経済成長は新政府が昨夏の総選挙に際して盛んにアピールしていた戦略である。もちろん35兆円に上る需給ギャップを財政出動のみで埋めるわけにもゆかない。一層の金融緩和が求められてくる。また財政出動もそれ自体は景気回復の「呼び水」にすぎず,その間に新事業,新産業が起きないことには,財源が尽きると同時に,浮揚した景気もまた萎んでしまうことは必定である。景気回復を主導する産業や事業の芽が育つ方向での財政出動が望まれる。
 サブプライム・ショックから1年以上経ってアメリカの住宅市場はようやく下げ止まりつつあるものの,毎月の雇用者数減少が程度を低めながらも続き,失業率は10%に達している。また,昨年末のドバイショックのようにヨーロッパの金融機関は未処理の不良債権を多く抱えていることが伺える。他方,日本の金融機関はバブル経済崩壊後と異なりその資産内容がさほど毀損していないため,日本経済は景気の回復と歩を併せて,円高に見舞われるというシナリオが容易に想起できる。したがって,財政出動も,為替の変動に耐えうる,また地方に根付きうる産業,例えば,環境や介護等に向けられることが望ましいであろう。製造業の場合も,これら新産業向けの生産財生産にシフトしていくことが求められてくる。コモディティ,いわゆる汎用品中心では為替変動の影響を受けやすい上に,アジア諸国の攻勢にさらされることは経験が示している通りである。
 他方で,就業者が減り続けている現状では,景気の持ち直しを支えていた家計支出の伸びも長くは期待できない。財政による当面の需要創出や職にありつけない者へ手当も忘れることは出来ない。しばらくは両面作戦をとらざるを得ないであろう。