II.経済指標の解説

(1) 全国の経済概況

◇昨秋以降、足踏み状態の日本経済

 内閣府は『月例経済報告』において一昨年6月から昨年9月まで一貫して「景気が持ち直している」との基調判断を示してきた。しかし、そのニュアンスには微妙な変化が伺える。すなわち、3-5月には持ち直しが「着実」と判断を引き揚げ、さらに6-8月には「自律的回復への基盤が整いつつある」と一層踏み込んだ回復宣言を放った。ところが、9月に「自律的回復に向けた動きもみられる」としながら「環境の厳しさが増している」と留保を付すと、10月には景気「持ち直し」より一段弱い、景気「足踏み」を宣言し、12月もこれを踏襲している。
 しかし、その直前の2010年7〜9月期までの四半期別GDP速報をみれば、実質国内総生産(GDP)は09年10〜12月期より前期比プラスに転じており、4-6月期には伸び率が一旦落ちたものの、7〜9月期になるとその伸び率が年率に換算して4.5%に達した。この年率4.5%は同時期のユーロ圏の1.5%はおろか、イギリス3.1%、アメリ合衆国2.5%よりも高い。
 ちなみに成長率への寄与度を要素別にみると、民間最終消費が圧倒的に大きく、次いで財貨・サービスの輸出である。特に国内総生産(GDP)の6割を占める個人消費は実質ベースで09年4〜6月期から6四半期連続で前期より増加している。政策効果の息切れやたばこ値上げの影響で10年10〜12月期はマイナスに転じるものの、その後緩やかな回復基調に戻ると予測されている(日本経済新聞2011年1月12日付け)。

 

 実質成長は続いており、直近のデータでは民間最終消費は堅調である。にもかかわらず、政府が16ヶ月続けた「持ち直し」宣言を撤回して「足踏み」を表明するに至った要因は何であろうか。それを探るために、以下、個別の指標をみてみよう。(昨年まで個別指標の図表は原発表資料を用いてきた。しかし、余りに細かな図表ではポイントがわかりにくくなるおそれがあるので、全国概況では、指標自体は原資料に当たるものの、図表は、特に断らない限り、内閣府『月例報告』の閣議報告の際に配布され図表を用いることにした)

◇6ヶ月ぶりに前月比プラスに転じた生産

 5月より前月比減少が続いていた生産は、11月には同1.0%増と6ヶ月ぶりに上昇に転じた。生産の上昇に寄与したのは、業種では輸送機械工業、電子部品・デバイス工業、その他工業等であり、品目別では普通乗用車、携帯電話、駆動伝導・操縦装置部品の順であった。「年明けの需要増を見込んで自動車が生産を伸ばしたほか、携帯電話向けの液晶パネルなども指数を押し上げた」(日本経済新聞2010年12月28日付け)。製造工業生産予測調査によると、12月、1月とも上昇が予測されている。但し、その上げ幅が小さくなることから経済産業省『鉱工業指数』11月分速報は「生産は弱含みで推移」との判断を示している。

◇企業収益は4四半期連続増加、倒産は16ヶ月続けて減少

 下図のように、企業収益は、09年10-12月期より連続して前年同期比増加を示しているが、内閣府資料によれば、売上高の持ち直しが大きく寄与している。7-9月期の経常利益は、前年同期比で製造業は実に209.0%、非製造業で19.9%、産業計54.1%の増加であった (『法人企業統計季報』10年7〜9月期)。現に日経の調査では、上場企業の4割が、2010年度下期(2010年10月〜11年3月期)に増収増益を見込んでいる。「多くの企業の想定を大きく超えて円高が進んでいる状況ではなく、企業業績は懸念したほど悪くない」(日本経済新聞2010年12月29日付け)。
 企業倒産も減少している。12月の倒産は1,102件で、17カ月連続で前年同月を下回った。この結果、連続減少期間としては過去4番目の長さとなった。「依然として『景気対応緊急保証制度』や『中小企業金融円滑化法』などの金融支援策の効果が続いている」(東京商工リサーチ『全国倒産状況』12月版)。
 ところが、企業の景気認識を、景況について「良い」と回答した企業の占める割合から「悪い」と回答した企業の割合を差し引いた業況判断D.I.にみれば、大企業では、9月時点でプラス、12月調査時点ではプラス幅を縮め、来年3月時点の先行き見通しマイナスになっている。全産業計ではいずれの時点もマイナスだが、やはり徐々に値が悪くなっている(『日銀短観』12月分)。企業は現時点では先行きなお「慎重」である。


◇上方修正された2011年度投資計画

 2010年度の土地投資額を含む設備投資額は、どの規模でも、製造業は増加計画、非製造業は中堅企業、中小企業で減少計画であったが、年度中に上方修正された(12月『日銀短観』)。また、『法人企業統計季報』10年7〜9月期の、設備投資額に関する四半期毎の統計によれば、まず非製造業が10年1-3月期より前年同期比で増加に転じ、製造業も7-9月期には増加に転じた。

◇失業率が低下し完全失業者数も減少する反面、長期失業者が増えている雇用情勢

 11月の就業者数は6,252万人と前年同月に比べ8万人の減であるが、減少は3ヶ月ぶりであった。男性は19万人の減少、女性は11万人の増加となっている。
 11月の完全失業率(季節調整値)は5.1%で前月と同じだった。男性5.4%(前月比変わらず)、女性4.7%(同0.1%ポイント上昇)であった。完全失業者数は318万人で前年同月に比べ13万人減少した。これで6か月連続の減少となる。求職理由別に前年同月と比べると、「勤め先都合」が25万人減少し、「新たに収入が必要」が7万人の増加、「自己都合」は2万人の増加であった。男性は「25〜34歳」を除く全ての年齢階級で完全失業者数が前年同月に比べ減少し、女性は「15〜24歳」及び「65歳以上」を除く全ての年齢階級で前年同月に比べ減少している(以上、『労働力調査(基本集計)』11月分)。
 また、『労働力調査(詳細集計)』平成22年7〜9月平均によれば、完全失業者(同集計の336万人)のうち、失業期間「3ヶ月未満」が87万人と前年同期に比し32万人も減少したのに対し、「3ヶ月以上」は240万人で同2万人増、うち「1年以上」が半分の128万人で同33万人の増であった。しかも同集計の図に現れているように2008年10〜12月期以来、対前年同期比増加が続いている。
 昨年12月時点の雇用人員判断をみると、「過剰」判断企業数−「不足」判断企業数の全体に占める比率は、企業規模にかかわらず数ポイントのプラスに止まり、かつ昨年9月時点に比しみな1ポイントずつ減少している。また3月先行き判断は12月とほとんど変わらない(12月『日銀短観』)。雇用調整はほぼ完了しつつある、と言ってよいであろう。
 『毎月勤労統計調査』11月分結果速報によれば、事業所規模5人以上の現金給与総額は前年同月比0.2%減の277,585円であった。きまって支給する給与に限ると、同0.3%増の263,577円(所定内給与が増減なしの244,836円、所定外給与は6.0%増の18,741円)であった。また、日本経済新聞によると、昨冬のボーナスは、1人当たりの税込み支給額(加重平均)は71万8,986円と前年比2.35%増えているが、これは実に3年ぶりの増加であった(昨年12月12日付け)。


◇持ち直しつつある家計消費

 物価指数については、11月の総合指数は平成17年を100として99.9となり、前月比は0.3%の下落、前年同月比で0.1%の上昇となっている(『消費者物価指数(全国)』11月分)。

 二人以上世帯の消費支出は前年同月比で実質0.4%の減少、前月比(季節調整値)でも実質1.0%の増加であった。但し、勤労者世帯の実収入は、前年同月比実質0.5%の増加であった(『家計調査(2人以上世帯)』11月速報)。
 消費マインドを消費者態度指数にみれば、11月の一般世帯の消費者態度指数は、前月差0.5ポイント低下し40.4であった。また、単身世帯の消費者態度指数は、前月差0.5ポイント低下し41.0となり、総世帯でも前月差0.5ポイント低下し40.6となった。いずれの指標も昨年6月まで上昇基調にあったものの、7月から僅かずつ低下している。(『消費動向調査』11月分)。
 販売側の統計もみてみよう。『商業販売統計速報』11月分によると、11月の商業販売額は42兆7,450億円、前年同月比5.1%の増加となった。うち、卸売業は31兆5,670億円で同6.6%の増加、小売業が11兆1,780億円で同1.3%の増加となった。大型小売店の販売動向を業態別にみると、百貨店は,6027億円、同1.5%の減少、スーパーは1兆302億円、同2.0%の増、コンビニエンス・ストアの商品販売額及びサービス売上高は6,620億円で前年同月比3.4%の増加となった。既存店に限ると、百貨店は前年同月比0.4%の減少、スーパーは同0.5%の増加となった。既存店ベースの売上高を前年同月と比較した場合、百貨店では2008年2月以降ずっと減少が続いているが、スーパーでは昨年10月から僅かに増加に転じた。他方、2009年6月以来減少を続けていたコンビニエンス・ストアの既存店ベースの前年同月比も昨年7月から増加に転じている(たばこ税引き上げ反動の10月のみ減)。
 その他、住宅建設は持ち直している。
 11月の住宅着工は、貸家は減少したが、持家と分譲住宅が増加したため、全体で増加となった。すなわち、持家27,235戸は前年同月比 7.1%増で13か月連続の増加、貸家 26,703戸は同9.5%減で2か月連続の減少、分譲住宅18,549戸は同46.3%増で9か月連続の増加であり、総数、新設住宅着工戸数72,838戸は同6.8%増で6か月連続の増加であった(国交省『建築着工統計調査報告11月分)。

◇アジア向け輸出が減少しつつも貿易収支、貿易・サービス収支は横ばい

 地域別の輸出入数量指数をみれば、2009年2月を底に回復を遂げてきた輸出は、特にアジア向けが2010年半ばより緩やかに減少している。アメリカ、EU向け輸出はともに持ち直している。輸入は横ばい状態である。
 国際収支は、輸出入とも金額が横ばいのため、貿易収支の黒字幅は横ばい。また、サービス収支の赤字幅も横ばいのため、貿易・サービス収支の黒字は横ばいである。

(2) 山形県の概況

◇一貫して持ち直しの動きが認められる県内経済

 山形県の経済状況について、昨年12月末に県が発表した『山形県経済動向月例報告』は「本県経済は、依然、厳しい状況にあり、持ち直しにやや足踏みもみられる」との基調判断を示している。県は、1月から5月までは「持ち直しの動きがあるものの、依然厳しい状況にある」と慎重な姿勢を示していたが、6月には「厳しい状況にある」との判断は崩さなかったものの、「生産を中心に持ち直している」との判断を挿入することになった。ところが、9月になると、生産と特定せず「持ち直してきているものの」と遠慮がちになり、11月からは現在の「足踏み」表現を加えて持ち直しに若干の懸念を示すに至った。
 基調判断は付随して個人消費、鉱工業生産、雇用状況についても触れているが、雇用については一貫して改善の動きを認めつつ厳しい状況が続いているとの判断を崩さなかった。個人消費も「低調となっている」との判断で一貫し、9月以降「一部に持ち直しの動きが見られるものの」との若干判断を上方修正したにすぎない。大きく変わったのは鉱工業生産である。県は5月まで「持ち直しの動きが続いている」と慎重な判断を続けていたものの、6月になると「持ち直している」と明確に宣言した。ところが、10月には「持ち直しが続く一方で、一進一退の動きが見られる」と若干の懸念を示すや、11月には「持ち直しに足踏みがみられる」と一転して足踏み宣言に転じた。そして、翌12月には再び一進一退宣言に戻している。
 以上のように基調判断は昨年後半より強気、弱気とめまぐるしく揺れているが、以下、その震源と思しき生産から個別指標を追ってみよう。

◇持ち直しの動きは明確なものの、先行き懸念がもたれている産業部門

 生産の動向を鉱工業生産指数(季節調整済み,2005年=100)でみると、生産指数は全国も県も09年12月以降、対前年同月比プラスを続けている。本県の10月100.7は前月比で3ヶ月ぶりのプラスであった。対前年比の上昇率が7月の26.3%から19.4%、13.6%、8.7%と緩やかに落ちているのが気に掛かるところであるが、全国の10月が90.9であり、前述のように、対前月比で11月にプラスに転じるまで5ヶ月連続のマイナスを続けていることと比較すれば、持ち直しは順調といって良いであろう。「業種別にみると、情報通信機械工業、電子部品・デバイス工業など10業種が上昇し、一般機械工業、化学工業など13業種が低下した」(『山形県鉱工業指数』10月速報)。
 但し、業況判断D.I.では、9月まで全国の判断と大差なかったものの、12月には「悪い」判断が全国に比し大きく増え、3月予測ではそれがさらに増えている。「先行き不透明感の高まりなどから」というのが日銀山形事務所の解説である。
 事業計画自体は、売上高の面でも経常損益の面でも前回9月調査よりも上方修正している。ただ、元々マイナス計画であった投資計画は前回調査に比し下方修正されており、企業の投資マインドは依然として低迷していることがわかる(以上、3つの表とも日銀山形事務所『山形県企業短期経済観測調査結果』12月調査)。



◇持ち直しの動きが足踏みしている雇用情勢

 11月の有効求人倍率〔季節調整値〕は0.52倍となり、前月を0.01ポイント下回り、3か月連続で低下した。改善の動きがここ3ヶ月くらい足踏みしていることがわかる。
 新規求人数[パートタイムを含む全数](原数値)6,121人は、前年同月比18.83%増であり、10か月連続で増加となった。産業別には、建設業、製造業、運輸業・郵便業、卸売業・小売業、金融業・保険業・不動産業・物品賃貸業、宿泊業・飲食サービス業、医療・福祉、サービス業等で増加し、複合サービス事業等が減少となった。なお、正社員に係る有効求人倍率(原数値)は0.28倍となり、前年同月を0.09ポイント上回った。
 新規求職申込件数[パートタイムを含む全数](原数値)6,444件は、前年同月比2.76%増であり、2か月ぶりに増加となった。これを態様別[パートタイムを含む常用]にみると、離職者(3,704人、前年同月比7.9%減)は12か月連続で減少し、在職者(1,635人、同21.5%増)が9か月連続の増加、無業者(922人、同31.3%増)も11か月連続で増加となった。離職者のうち、事業主都合離職者(1,311人、同22.0%減)は12か月連続で減少した反面、自己都合離職者(2,071人、同4.8%増)は2か月ぶりに増加となった。(山形労働局『雇用情勢』11月分)。
 本県の10月の現金給与総額(事業所規模5人以上)は236,167円であり、前年同月比4.9%の増加であった。現金給与総額のうち、きまって支給する給与は234,928円であり、前年同月比4.7%の増加であった(山形県総務部『毎月勤労統計調査地方調査結果速報』10月分)。

◇小幅ながら持ち直しを続ける消費動向

 東北経済産業局『東北地域大型小売店販売額動向』11月分によれば、本県の大型小売店舗(百貨店、スーパー)の販売額(既存店ベース)は対前年同月比で1.8%の減少であった。前月には08年2月以来のプラスに転じたが、再びマイナスを記録した。但し、全店計では8月より4ヶ月連続してプラスである。東北全体でも、既存店ベースでは08年3月以来のプラスに転じている。
 東北六県のコンビニエンス・ストアの11月の販売額等(商品販売額+サービス販売額)は既存店ベースでみて、対前年同月比3.7%の増加であった。前月は5ヶ月ぶりに減少していたが、11月には再びプラスに転じた。10月の値は全国的にも見られたタバコ増税前の駆け込み需要の反動であろう(同『東北地域コンビニエンス・ストア販売額動向』11月分速報)。
 12月の新車登録台数は普通車が503台(対前年同月比36.5%減)、小型車856台(同27.4%増)、軽自動車1,187(同16.1%減)であり、普通車・小型車計も軽自動車も9月以降、前年度同月比減少を続けている(『東北運輸局管内の新車新規登録・届出台数(12月分速報値)』)。
 11月の山形県内の新設住宅着工戸数403戸は対前年同月比10.2%減、4ヶ月連続の減少であった。内訳は分譲住宅(165戸、96.4%増)は大きく増加したものの、持家(181戸、21.6%減)、貸家(57戸、55.5%減)は減少した(『平成22年11月山形県新設住宅着工統計について』)。
 少し古くなるが、本県の消費動向を荘銀総研が昨年9月に実施した『第17回山形県家計消費動向調査』に求めれば、9月時点の消費指数は前回6月時点に比して5.1ポイント改善している。これで4期連続の改善となるが、その改善幅は縮小している。内訳を見れば、景気判断指数(景気・雇用環境・物価の3項目)が6月比4.4ポイント悪化しているものの、暮らし向き動向指数(世帯収入・保有資産・お金の使い方・暮らしのゆとりの4項目)は、1年前に比し世帯収入が増加したことを反映して、同9.5ポイント改善している。消費指数は今後1.1ポイント上昇と見通されており、改善の幅がさらに小さくなる。景気判断指数はやや改善するものの、暮らし向き動向指数が若干悪化しているからである。

◇「足踏み」している景気持ち直しを確かなものにするために

 各種指標を当たった結果、日本経済全体でも県内経済でも基本的に「持ち直し」の動きが続いていること、しかし、昨年後半から生産を中心に若干の落ち込みがあり、企業も先行きの見通しに慎重であることがわかった。この落ち込みないし先行き不安の原因が昨年半ば以降の円高にあることに異論はあるまい。
 しかし、この円高という環境は向こう数年解消する見込みがない。
 昨年本欄でも指摘した外来性要因、ヨーロッパ及びアメリカそれぞれの金融機関が抱える不良債権の処理が大きく影響しているからである。1年経ってみると、その病巣は一層深いことが露わになった。すなわち、ヨーロッパは金融機関が抱えている不良債権の多くが国債であるため、緊縮財政が当事国の景気を冷ます働きをするばかりではなく、ユーロ各国が国債償還への支援に足並みの乱れを見せる度毎に、ユーロ不安がかき立てられ売り叩かれる状況が続いている。他方、アメリカの金融機関が抱える不良債権は個人向け、しかも低所得者向け住宅ローンであるから、不良債権処理=貸し剥がしもままならず、FRBは量的金融緩和を止めるに止められない状況である。このようにヨーロッパ、アメリカともに失業率が高止まりしているなかで、景気対策や輸出振興という面からもまた不良債権の処理という面からも通貨安に傾かざるをえないため、日本経済は、景気が十分持ち直していようがいまいが、円高の流れから抜け出させない状況にある。
 したがって、企業及び政府は、円高自体は与件として投資戦略なり政策を立てる必要がある。
 本文で取り上げた個別指標にはその先駆けも認められる。
 一つには新技術への対応である。企業収益の4四半期連続の増加や投資計画の上方修正には、旺盛な新興国需要ばかりでなく、これが貢献していると思われる。
 例えば、半導体や液晶関連メーカーなどが年末年始の休業期間を返上して工場を操業した。スマートフォン(高機能携帯電話)や薄型テレビ向けの電子部品需要の伸びに対応するためだ。スマートフォンに搭載するコンデンサーの数は携帯電話のおよそ3倍になる。また、従来型の携帯電話は液晶表示部分が小さく、台湾勢などが得意とする低価格パネルで十分だったのに対し、動画表示を重視するスマートフォンは高精細で視野角も広い日本製パネルを必要としている。現に東芝とシャープは遊休地や工場を活用し、画面サイズが10型以下の液晶パネルの生産ラインを新設することにした。どちらも1000億円規模の投資である。また、キャノンは一旦見送った大分県日田市の新工場着工を今年6月に再開することにした。中国やアジアの需要が持ち直すとの判断からだが、生産するのはレーザープリンターの競争力を左右する部品で「ノウハウや新技術を取り込み、中核部品は国内で生産する」(日本経済新聞昨年12月18日付け、21日付け、22日付けより)。縮小しているように見える国内市場もその外は拡張を続けているのであり、先進国も含め消費需要は常に高度化しているのである。
 もう一つは、その消費需要の回復の確かさであろう。GDPの実に6割を占めるからである。
 2010年度中に売上高7兆円を超え、暦年ベースの百貨店売上高を超えると予測されている消費者向けネット取引はこの正月の伸びが急だった。今月1日から10日までの売上高がヤフーの通販サイトでは前年同期比で20%、楽天で同30%増えた。その理由は第1に「休日でも注文の翌日に配達したり、送料無料のサービスが充実。家にいながら買い物をしやすい環境が整ってきた」。第2に「大手企業の昨冬のボーナスが3年ぶりに前年を上回るなど所得環境が改善しつつある」からである(同今年1月12日付け)。初売りは地方の百貨店でも堅調で「節約疲れ」の表れとも評された。しかし、ネットの初売りがそれを上回っているのは、配送等利便性の向上に務めているからである。他方、収入回復は未だしである。冬のボーナスが3年ぶりに増加したといっても、その支給額(日本経済新聞集計71万8986円)はITバブル崩壊後の02年(72万8999円)を下回っており、14.93%減と過去最大の減少率を記録した昨冬の落ち込みを補えず、同紙も「個人消費を刺激するには力不足」と断じている(昨年12月12日付け)。
 景気が持ち直しているなかで雇用環境が取り残されていることが懸念される。所得回復が遅れたり長期失業者が増え続けたりしたままで景気回復があり得ないことは言うまでもない。円高傾向が容易に覆らないとすれば、雇用・消費の下支えは産業界としても政府としても最優先すべき課題であろう。