II.経済指標の解説

(1) 全国の経済概況

◇昨秋以降、景気持ち直しに慎重判断が入った日本経済

 日本の現状および将来を考えるとき、昨年3月11日に発生した東日本大震災およびその後の福島第1原発の事故の影響は計り知れない。単にエネルギー・環境の問題としてではなく、科学技術を管理し、利用するするわれわれ人間、社会の姿勢が問われてくる。確かに大震災による景気押し下げ作用は大きく、今なおそこからの回復過程にある。しかし、日々の経済活動に限ると、景気押し下げという点でも景気の先行き見通しの不安定さという点でも「千年に一度の大津波」よりも「百年の一度」のリーマン・ショックの余波としての欧州金融危機とその反映である円高の影響の方が大きい。内閣府の『月例経済報告』でも、ギリシャ国債の償還問題が再燃した後の10月分において「持ち直しているものの、そのテンポは緩やかになっている」と、景気判断を半年ぶりに下方修正し、以後「緩やかに」という留保文言を外せないでいる。
 政府が「緩やかに」と留保を付けている根拠がはこれから資料で確認していくことになるが、まず2011年7〜9月期の四半期別GDP速報よりマクロ数値を確認しておく。実質国内総生産(GDP)はこの7〜9月期に前期比プラスに転じた。季節修正値1.4%は年率換算で5.6%に達する。伸び自体は民間住宅も大きいが、GDP全体への寄与度からいえば、財貨・サービスの輸出および民間最終消費である。この年5.6%という数値は、同時期の中国9.6%、インド8.4%には及ばないものの、EU圏やアメリカ合衆国の0.6%を大きくしのぐ。

 以上マクロ資料だけでも、現在の日本経済は、堅実な復興需要というプラス要因と、欧州金融危機の収束見込みとその世界経済的影響というマイナス要因の双方を天秤にかけて先行き判断せざるを得ない状況ということが推測されるが、以下、個別指標で確認してみよう(以下掲げる図表は特に断らない限り公表資料のものを転用している)。
 

◇震災後の回復は明らかなものの足踏み状態の生産

 11月は生産、出荷、在庫、在庫率のいずれも数値が低下した。震災後、急ピッチで回復していたものの、9月に落ち込むと10月には持ち直し、再び低下している。12月、1月については、製造工業生産予測調査が上昇を予測している。こうした直近の上下動を反映して経済産業省『鉱工業指数』11月分速報は「総じてみれば、生産は横ばい傾向にある」と判断を下している。
 しかし、図を見れば下降を挟みながら、回復途上にあることが明らかであろう。問題は先行きの不安定要因である。

◇企業収益の回復は9月以降は足踏み状態

 『法人企業統計季報』平成23年7〜9月期によれば、同期の、売上高少、経常利益、設備投資は、製造業も非製造業も、マイナスを示している。
 売上高330兆7,420億円は前年同期比1.9%の減であり、業種別に見ると、製造業では、石油・石炭、金属製品、輸送用機械などで減収、電気機械、食料品、化学で減収となり、全体では1.7%の減となった。非製造業では、運輸業、郵便業などで増収になったものの、卸売業、小売業、サービス業、建設業などで減収なったことから同2.0%の減収となった。
 経常利益(金融業、保険業を除く)は9兆8,362億円で同8.5%の減となった。業種別では、製造業は化学、食料品、汎用機械で増益になったものの、情報通信機械、輸送用機械、生産用機械で減収になり全体で18.7%の減となった。他方、非製造業では、情報通信業、郵便業、卸売業、小売業で増益になったものの、電気業、建設業、サービス業などで減益となり、全体としては2.7%の減となった。
 設備投資額は8兆6,183億円で同9.8%の減となった。業種別では、製造業は情報通信機械、生産用機械、金属製品で増加したもの、食料品、鉄鋼、輸送用機械で減少し、全体として1.6%の減となった。非製造業は卸売業、小売業、運送業、郵便業、建設業など多くの業種で減少したことから全体としては14.3%の減となった。
 『日銀短観』12月調査によれば、大企業の景気認識を、景況について「良い」と回答した企業の占める割合から「悪い」と回答した企業の割合を差し引いた業況判断D.I.にみれば、大企業では、前回9月調査に比べ、製造業-4は6ポイントの低下、非製造業4は3ポイント改善、全産業0で1ポイント低下となっている。先行き判断(2012年3月の予想)は製造業-5、非製造業0、全産業-2となっており、前回に比べてそれぞれ1〜4ポイント悪化させており、大企業が先行きに慎重な姿勢であることがわかる。
 日本経済新聞による同短観業況判断D.I.の数値の推移を示す図は、2009年夏のリーマン・ショックによる景気後退も急であるがその後の回復も急であることと同時に、今回の業況判断の低下がの回復局面において2010年以降、全体から見れば小幅ながら、ジグザグ上下動を起こしており、その一環であることが分かる。2010年以降の景気回復の腰折れは、為替動向とリンクしており、それに9月以降の欧州金危機再発による先行き懸念が加わった者と判断される。
 2011(平成23)年11月度の全国企業倒産件数(負債額1,000万円以上)は1,095件、負債総額が1,876億7,500万円となった。倒産件数は、前年同月比3.2%増で、今年7月以来4カ月ぶりに前年同月を上回った。これに対し負債総額は、同31.4%減少し、11月としては1989年(813億1,400万円)以来、22年ぶりに2,000億円を下回った(東京商工リサーチ『2011年11月度全国企業倒産状況』)。


◇下期に上方修正されわずかな減少に止まった2011年度投資計画

 2011年度の土地投資額を含む設備投資計画は、大企業では、前年比で製造業10.2%増 、非製造業7.1%増、全産業8.2%増であった。大震災のあった上期に7-17%下方修正されたが、下期に数%上方修正され、結局それぞれ-3.5%,-0,5%,-1.6%の下方修正に止まった。ソフトウェア投資に限定すれば、大企業の2011年度計画は前年比で製造業6.2%増、非製造業-1.1%の減、全産業1.4%の増であり、その後の修正もそれぞれ-0.5〜-3.0%に止まった。IT投資に間断は許されないということであろう(前記短観)。

◇大震災後の失業率上昇が収まりつつある雇用情勢

 11月の就業者数は6,260万人と前年同月に比べ8万人増と5ヶ月ぶりに増加に転じた。男性が4万人の増加、逆に女性は4万人の減少となった。
 11月の完全失業率(季節調整値)は4.5%で前月と同じだった。男性4.8%(前月比変わらず)、女性4.1%(同0.1%ポイント上昇)であった。完全失業率(男女計)は、大震災後上昇に転じたものの、11月は上昇しなかったことになる。完全失業者数は280万人で前年同月に比べ38万人(11.9%)減少している。男性は同25万人減、女性は13万人減であった。完全失業者数男女計の対前年同月比減少は2010年6月以降続いている。求職理由をみると、「勤め先都合」は72万人と、前年同月に比べ17万人の減少、「自己都合」は95万人と、8万人の減少であった。
 この間の完全失業率の推移をみると、リーマン・ショックによる景気後退が2009年3月に底を打った後も上昇を続け同年7月には5.5%に達した。その後、下落に転じ2010年2月には4.9%まで落ちた。しかしその後は4.9%から5.1%の間を上下動する一進一退が続いていた。それが2011年2月に4.6%まで落ちた。直後に大震災が起きたものの、3〜8月は被災三県を除いた数値を用いていることもあり、9月には4.1%まで落ちている。しかし、欧州金融危機の先行き不安が顔をもたげ、再び4.7%まで上昇し10,11月に4.5%に止まったのである(以上、『労働力調査(基本集計)』11月分)。
 他方、長期失業者についてみると、失業期間「3ヶ月以上の者」は、3ヶ月ごとの集計では2010年10-12月以降、対前年同期比で減少を続けていたものの「1年以上の者」の増加が止まない状況が続けていた。それが2011年4-6月に初めて減少に転じた。それでも103万人に上っていることには注意を要する(『労働力調査(詳細集計)』平成23年7〜9月平均)。

 昨年12月時点の雇用人員判断をみると、「過剰」判断企業数−「不足」判断企業数の全体に占める比率は企業規模では大きな差がない。企業規模計では製造業8%、非製造業-1%、産業計2%であり、3ヶ月前の調査に比べそれぞれ2%、-2%、-1%の変化である。3ヶ月後の先行き予測もそれぞれ7%,-1%,2%であり、大きな変化は見込まれていない(前記短観)。ちなみに数%プラスという状況は前年から続いている。
 『毎月勤労統計調査』11月分結果速報によれば、事業所規模5人以上について、所定内給与が245,212円で前年同月比0.3%増、所定外給与が19,052円で同1.3%増、両者を合わせた「きまって支給する給与」は、0.3%増の264,264円は同0.3%増であり、それぞれ11月ぶり、3ヶ月ぶり、11ヶ月ぶりの増加であった。しかし、特別に支払われた給与が11.954円と同22.4%減であったため、「きまって支給する給与」と合わせた現金給与総額276,218円は同1.0%の減少に止まった。
 他方、日本経済新聞社の調査によると、2011年冬のボーナスは「1人当たりの税込み支給額(加重平均)は73万9360円と10年冬に比べ3.07%増え」ている(同紙2011年12月19日付)。これは、2年連続の増加であるものの、「08年の金融危機前の9割弱の水準で個人消費を刺激する力は弱い。円高や欧州債務危機による足元の業績悪化が来夏ボーナスに響く可能性もある」と同紙は懸念を示している。毎勤データとの違いはおそらく調査対象企業の違いであろう。賞与こそ企業規模で差が生じるところである。同じ日経の調査でも、新興上場企業は「10年冬に比べ2.70%増の48万74244円」であるものの「大手企業を含む全体(619社)の支給額(73万9360円)に比べても約7割の水準」に止まっている(日経産業新聞同日付)。


◇持ち直しつつある家計消費

 物価指数については、11月の総合指数は平成20年を100として99.4となり、前月比は0.6%の下落、前年同月比で0.5%の下落となっている(『消費者物価指数(全国)』11月分)。

 11月の2人以上世帯の消費支出は273,428円であり、前年同月比で実質3.2%の減少、前月比(季節調整値)で実質1.3%減であった(『家計調査(2人以上世帯)』11月速報)。
 
 消費マインドを消費者態度指数にみれば、11月の一般世帯の消費者態度指数は、前月差0.5ポイント低下し38.1であった。一般世帯の消費者態度指数を構成する各消費者意識指標の動向を前月差でみると、「耐久消費財の買い時判断」が0.1 ポイント上昇し40.4となったものの、「雇用環境」が1.0 ポイント低下し34.3、「暮らし向き」が0.7ポイント低下し39.1、「収入の増え方」が0.4ポイント低下し38.7 となった。(『消費動向調査』11月分)。
 販売側の統計もみてみよう。『商業販売統計速報』11月分によると、11月の商業販売額は41兆7,030億円、前年同月比2.5%の減少となった。うち、卸売業は30兆7,620億円で同2.6%の減少、小売業が10兆9,400億円で同2.3%の減少となった。大型小売店の販売動向を業態別にみると、百貨店は5,891億円、同2.2%の減少、スーパーは1兆482億円、同1.2%の減少、コンビニエンス・ストアの商品販売額及びサービス売上高は7,314億円で前年同月比10.5%の増加となった。これを構成別にみると、商品販売総額は6,977億円で同10.2%の増加(その内訳はファーストフードおよび日配食品が2,381億円で同4.3%の増加、加工食品が2,040億円で1.8%の増加、非食品が2,555億円で25.0%)であるのに対し、サービス売上高は338億点と規模は小さいものの実に17.6%の伸びであった。好調なコンビニの売上高も食品以外の商品、サービスが牽引していることが歴然としている。
 既存店ベースの売上高を前年同月と比較した場合、百貨店では2008年2月以降ずっと減少傾向にあるなかで2010年10月、11年2月、6月がわずかにプラスであった。スーパーは2010年9-11月の間、増加したが、同年12月からは減少傾向が続き、わずかに2011年2月と7月がプラスであった。他方、コンビニエンス・ストアの既存店ベースの前年同月比売上高は2010年7月から増加傾向が続き、いずれもたばこ税値上げの反動とみられる2010年10月、2011年9月のみマイナスであった(下図は同速報を元に作成)。

 その他、住宅建設は若干持ち直している。
 11月の住宅着工戸数は72,635戸(前年同月比0.3%減)、季節調整済年率換算値で84.5万戸(前月比9.1%増)。3か月連続で前年同月の水準を下回ったものの、減少幅は縮小してきている。内訳は、持家が前年同月比では3か月連続の減少(同5.1%減、季節調整値の前月比1.8%増)。貸家は前年同月比では3か月連続の減少(同8.5%減、季節調整値の前月比3.6%増)。分譲マンションは前年同月比では2か月連続の増加(同24.5%増)である(国交省『住宅着工の動向について』11月分)。

◇輸出は横ばい、輸入は緩やかに増加

 輸出は横ばいである。アジア向けが横ばいで、アメリカ向け、EU向けはともに増勢が鈍化している。先行きについては、海外景気の下ぶれリスク及び7円高やタイの洪水の影響に留意する必要がある。輸入は緩やかに増えている。アジアおよびEUからの輸入が緩やかに増えつつある一方、アメリカからの輸入は横ばいである。
 国際収支については、貿易収支は、輸出金額が増加し、輸入金額が減少したため、黒字に転じた。サービス収支の赤字幅は横ばいだが、貿易収支の黒字幅を上回っているため、貿易・サービス収支は引き続き赤字となった。

(2) 山形県の概況

◇大震災からの回復は早かったものの、景気持ち直しは緩やかな県内経済

 山形県の経済状況について、昨年12月末に県が発表した『山形県経済動向月例報告』は「本県経済は、依然として厳しい状況にあるものの、緩やかに持ち直している」との基調判断を示している。県は、大震災後、4月5月と立て続けに「東日本大震災の影響により、足もとでは弱い動きもみられ」る、「東日本大震災の影響により、生産活動が大幅に低下する」との厳しい認識を示したものの、6月に「一部に持ち直しの動きみられる」を宣言すると、以降は基調判断では震災の影響に一切触れず、単に「厳しい状況」のなかでも「生産を中心に持ち直している」と持ち直しを強調するようになっていた(12月で「生産を中心に」という限定が外れる代わりに「緩やかに」との状態を示す文言が入った)。
 観光等一部産業は大打撃を受けたものの、生産を中心に持ち直しは急であることが伺われる<。以下、個別指標を追ってみよう。

◇持ち直しの動きが緩んできた鉱工業生産

 生産の動向を鉱工業生産指数(季節調整済み,2005年=100)でみると、10月は100.1で前月に比べ1.4%の低下で、低下は「化学工業、一般機械工業など14業種での低下による」。前月比では3ヶ月連悪のマイナスとなった(『山形県鉱工業指数』10月速報)。
 しかし、日銀山形事務所の、いわゆる短観を見ると意外な面が浮かび上がってくる。一言で言えば、業況判断では現在も先行きも芳しくないものの、経常損益計画や投資計画は上方修正されている(日銀山形事務所『山形県企業短期経済観測調査結果』12月調査)。


◇改善しつつある雇用情勢

 11月の新規求人数[パートタイムを含む全数](原数値)は7,676人で、前年同月と比較すると25.40%増となり、8か月連続で増加となった。産業別に見ると、前年同月比で増えているのは建設業、製造業、運輸業・郵便業、卸売業・小売業、宿泊業・飲食サービス業、生活関連サービス業・娯楽業、医療・福祉、サービス業等であり、減らしているのが金融業・保険業・不動産業・物品賃貸業等である。対して、新規求職申込件数[パートタイムを含む全数](原数値)は5,911件で、前年同月と比較すると8.27%減となり、6か月連続で減少となった。これを態様別[パートタイムを含む常用]にみると、離職者(3,346人、同9.7%減)は6か月連続で減少し、離職者のうち、事業主都合離職者(1,198人、同8.6%減)は6か月連続で減少、自己都合離職者(1,862人、同10.1%減)は6か月連続で減少となった。また、在職者(1,423人、同13.0%減)は3か月連続で減少、無業者(991人、同7.5%増)は2か月連続で増加となった。
 11月の有効求人倍率〔季節調整値〕は0.70倍となり、前月を0.05ポイント上回った。原数値では22か月連続で上昇した(山形労働局『雇用情勢』11月分)。


 本県の10月の現金給与総額(事業所規模5人以上)は237,734円であり、前年同月0.7%の増加であった。現金給与総額のうち、きまって支給する給与は237,148円であり、前年同月比0.9%の増加であった(山形県企画振興部『毎月勤労統計調査地方調査結果速報』10月分)。

◇小幅ながら持ち直しを続ける消費動向

 東北経済産業局は本県および宮城県、秋田県の業態別(百貨店とスーパーの別)数値は2009年4月分以降「秘匿」とし公表していない。よって大型小売店舗合計で示すと、本県は昨年1月から10月までの販売額は全店ベースでは1、3月以外は前年同月比で増加。既存店ベースでは1、3月に加え、8、9月もマイナスであった。10月は全店ベースが11,785百万円で前年同月比3.6%増、既存店ベースでは2.8%の増加であった(同局『東北地域大型小売店販売額動向』10月)。
 東北六県のコンビニエンス・ストアの昨年1月から10月までの販売額等(商品販売額+サービス販売額)は3月に全店ベースでも既存店ベースでも対前年同月比で10数%落ち込んだものの、4月の落ち込みは全店ベースでも4.5%、既存店ベースではわずかに0.4%の減少に止まった。それ以外は対前年同月比でおおむね10%以上の増加を示している。10月の販売額等は全店ベースで54,903百万円、同22.8%の増加、既存店ベースでは24.5%の増加であった(同『東北地域コンビニエンス・ストア販売額動向』10月分速報)。
 11月の軽を含む乗用車(軽を含む)の新車登録届出台数は3,850台で、前年比26.4%の増加であり、2ヶ月連続増加となった。これは前年同月がエコカー補助金の終了により大きく落ち込んでいたためと推測される(『山形県経済動向月例報告』12月より)。
 10月の山形県内の新設住宅着工戸数は対前年同月比5.3%減の306戸であった。その内訳は持ち家(239戸,23.2%増)、貸家(55戸,51.3%減)、分譲住宅(12戸,14.3%減)である(『山形県新設住宅着工統計』10月分)。
 少し古くなるが、本県の消費動向をフィディア総合研究所が昨年9月に実施した『第21回山形県家計消費動向調査』に求めれば、9月時点の消費指数は前回6月調査に比し9.8ポイントの改善となった。その構成要素にわけてみれば、景気判断指数(景気・雇用環境・物価の3項目で構成)が同8.4ポイント上昇、暮らし向き判断指数(世帯収入・保有資産・お金の使い方・暮らしのゆとりの4項目で構成)が1.4ポイント上昇であった。「震災から6ヵ月が経過し、消費マインドにわずかな改善の兆しが見られた」。また、今後の見通しとして、消費指数は1.5ポイント上昇している。内訳としての景気判断指数が3.5ポイント上昇、暮らし向き判断指数は2.0ポイント下落しており、ほぼ横ばいと推測される。一方、支出意向をみれば、「交際費」「娯楽費」および大きな買い物(自動車、住宅など)でほぼ震災前の水準に戻っている。

◇復興を地域再生につなげるために

 各種指標を当たった結果、日本経済全体でも県内経済でも基本的に「持ち直し」の動きが続いていることが明らかとなった。直近の指標の低下も日本経済新聞から引用したグラフから明らかなように、リーマン・ショック後の回復局面におけるジグザグ運動の一環である。また、暮れに成立した第3次補正予算に組み込まれた復興予算約12億円が実施されれば国内経済が上向くのは間違いない。
そうした情勢の中で気になるのは、日本企業に海外進出志向ばかりが目立つことであ る。例えば、昨年の日本企業による「海外M&Aは609件、684億ドル。買収額は前年比78%増となり、過去最高だった08年を上回った」。背景にあるのは「新興国に出て行かないと成長はない」「地域分散で収益安定を図る」という人口減少・国内市場縮小への対応であり、歴史的な円高で海外企業の買収コストが低くなったことであるが、それだけではない。日本企業が「潤沢な手元資金を抱えて」いることもその一因である(日本経済新聞2011年12月29日付)。
 海外進出自体は悪いことではない。国内市場が縮小している製品を輸出するだけでは、相手国と貿易摩擦を生むだけである。また、円高を負の側面だけ捉えて怯えるのはむしろ思考の怠慢であろう。しかし、海外に安住の地があるわけではない。欧州の金融危機は、未だに収束の見込みがないことは肝に銘ずるべきであろう。承知のようにヨーロッパでは、国債の償還が不安視される国がアイスランドやギリシャ以外に広がり、EU大国イタリアの国債利回り(国債価格は下落)は上昇している。金融不安が収束した後も、財政再建による景気後退が待ち構えている。下院を野党が握ったアメリカ合衆国は、秋の大統領選挙で決着が付くまでは、大統領府と議会とのすくみ合いは終わらず、大規模予算を伴う思い切った政策展開は全く期待できない。OECDが昨年暮れ発表した2012の先進国経済成長予想では、債務デフォルトが無秩序に発生しない「標準シナリオ」でさえ、日米とも2.0%であり、欧州に至っては0.2%の成長に止まる。リーマン・ショック時には「新興国は無傷で成長を続ける」という「デ・カップリング論」が幅をきかせていたが、その第2波に当たる今回の欧州金融危機では、不良債権を抱え資金の逼迫した欧米の金融機関が新興国から大々的に資金を引き上げたり、欧州の景気後退により輸入が減ったりすれば、新興国の成長率を押し下げる可能性が大きい。金融危機の直接的影響が最も小さい先進国を海外に求めていては「灯台もと暗し」になりかねない。言い換えると、円高は容易には収まらない。
 円高の収束がなかなか見込めない以上、工場の海外移転や海外企業買収は止むを得ない面があるが、豊かで比類ないほど高度に消費社会化した国内市場を見過ごすのは片手落ちであろう。そもそも国内金融機関がプライム・ローンを多くは組み込んでいないのに、リーマン・ショックによる景気落ち込みが峻烈であったのも、またそこからの回復過程が2010年以降がジグザグと足踏みを繰り返しているものの、その原因を挙げてみれば、輸出依存、円高進行、欧州金融危機再発という海外要因ばかりである。しかし、毎年本欄が強調しているように、日本はGDPの6割は内需である。アジアの安い普及品と太刀打ちできる高付加価値商品とは何も最先端技術を詰め込んだ商品ではない。例えば、i-podもi-phoneも技術水準だけでみれば日本製品を上回っていたわけではない。高度化した消費欲望・態様(1曲ごとの小口消費、ネット経由の手軽な購入)に対応したにすぎない。また高度化した消費態様とは個人に限らない。事業所向け製品、サービスも高度化している。例えば、いまや普及品となったパソコンは価格競争が激しく、ソニーや東芝などが国内販売分の大半をアジアで生産しているなかで、一昨年「米ヒューレット・パッカード(HP)は日本向けに販売するノート型パソコンの生産を中国から東京都内の工場に全面移管する。1人当たり人件費は高いが、生産効率の向上と納期短縮によって採算を確保しながら販売台数が増やせると判断した。「昭島の従業員1人当たりの人件費は中国の約4倍。同じラインでデスク型とノート型を生産し稼働率を高めるほか、世界市場で首位の調達力を生かして部品コストを圧縮、製品価格は据え置く」という(日本経済新聞2011年6月29日付)。このように製造業といっても、今日国内で求められているのは、価格ばかりでなく、細かな仕様変更に迅速に対応しうるノウハウである。また、消費低迷といわれるなかで、コンビニが都市部でも配送を受け付けたり、震災地に移動店舗で進出していたりすることは、「ケア」が単純に医療・介護分野とは限らず、両性が社会進出し、勤務が長時間に及ぶなかで、人手が足りない企業や家庭の肩代わりという意味での「ケア」もあり得ることを示している。長く続く円高によって対外競争が一層厳しくなる反面、国内には常に新たな需要と市場が生み出されている。それは都市に限らず地方でも同じであり、家庭内消費に限らず企業取引でも同じである。円高だからと言って海外にばかり目を向けるのではなく、国内に日々生じている需要の変化に着目し果敢に対応してゆくべきであろう。